東京高等裁判所 昭和30年(う)1185号 判決
被告人 曹文雄
〔抄 録〕
両弁護人の控訴趣意中、量刑不当の主張を除くその余の各論旨について。
よつて考察するのに、覚せい剤取締法にいわゆる所持とは犯人が覚せい剤を自己の実力の支配下に置くことを意味するのであるから、苟もかかる事実の認識ある以上、いわゆる不法所持罪の犯意ありとなし得ること勿論であつて積極的に目的物件を預るという意思の下に所持を開始したか否かというが如き事実はもとより犯罪の成否を左右するものではない。(最高裁判所昭和二五年一〇月五日第一小法廷判決、判例集四巻一〇号一八八九頁趣旨参照)論旨は、原判示覚せい剤は金某からその保管方を依頼されこれを拒絶したが擅に被告人方に置いて行つたもので預るという意思ではなかつたと主張するが記録によれば被告人は該物件が覚せい剤であることを知つていたので取締当局に発見されることを恐れ、その後一部はこれを壺に入れたまま他人居室の人形陳列箱の中に無断で隠匿し、一部はこれを情を知らない知人にその保管方を託し、よつて(前者については直接に、後者については該受託者を通じて間接に)該物件を自己の実力支配下においたものであること(最高裁判所昭和二四年五月二六日第一小法廷判例集三巻六号八六九頁趣旨参照)が明らかであるから仮りに所論の如く最初は被告人においてこれを預るという意思はなく、又金某が無理において行つたものであるとしても、少くも叙上の如くこれを隠匿し又は寄託した時から、覚せい剤取締法にいわゆる不法所持の犯意があつたものといわねばならない。しかして原判決は被告人の所持する原判示粉末約三十一瓦が覚せい剤の原薬であることの証拠として昭和二十九年十一月三十日附鑑定人鍬柄司郎作成の鑑定書を引用していること、判文上明瞭であるから、原判決には毫も所論の如き理由不備の違法はない。
これを要するに原判決の採証、認定には条理、実験則に反するものはなく、記録を精査するも原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認はない。論旨はいずれも理由がない。